五反田団「偉大なる生活の冒険」感想メモ

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アトリエヘリコプターで五反田団「偉大なる生活の冒険」を観た。登場人物とストーリーを簡潔に。

 

別れた女(内田慈)の部屋に居候している男(前田司郎)。隣の部屋に住む田辺(玉田真也)はザリガニを買っていて、男が田辺を勝手に部屋に入れることを女は嫌がっている。男には妹(新井都)がいたが4年前に他界。女はバイト先の既婚者と不倫。田辺は付き合っていた彼女(神崎れな)と同棲を開始。男は部屋でRPGをやっている。

 

舞台は別れた女の部屋に居候する現在と妹が部屋に泊まりに来た過去が男のあまり変化の無い生活を軸に転換する。「男のあまり変化の無い生活」の度合いは凄まじく、飲み物を取りに立ち上がることさえも拒絶する勢い。そのくせ論理は意外としっかりしていて、

 

 4年って長いよね。小学一年生が四年生になるんだもんね。

 ……五年生じゃない?

 

みたいな会話が多少の苛立ちも含みながら心地よく、面白い。他に面白かった会話が下記。

 

 お兄ちゃんの未来、何色?

 ……何色があんの?

 

田辺 (部屋に置いてあったお茶を飲んで)これ、腐ってんですか?

 (飲んでみる)……ああ、味変わってるだけだよ。時間経つと味変わるんだよ。

田辺 だからそれ腐ってるんじゃないですか?

 

抜粋した会話からも分かるように男はとにかくダメな感じで、たちが悪いのはそのままでもなんとかなりそうだと思っている点。男がやっているRPGはすでに魔王のいるダンジョンに入れるところまでは進んでいるのに男はなかなかダンジョンに入ろうとせず、入っても魔王をなかなか倒さない。つまり男の人生そのものになっている。前に進まず、変化せず、今のままを固定して時間だけを進めようとしている。

 

みんなが諦めのような気持ちで男を観る。

 

終盤、男がほんの少しだけ動き出す。数日帰ってこない女のために自分のカメラを売り、(女が昔、家族で食べたと語った)カニ缶を買って待つ。帰ってきて取り乱す女にカニ缶を食べさせ、なだめ、プロポーズする。

 

決して劇的ではないドラマにものすごく揺さぶられてしまった。それはやはり男に対する諦めを抱いていたからだと思う。0が1になった瞬間を観てしまったような衝撃。

 

プロポーズに対して未来が見えない男と結婚することを拒否する女に男は言う。他人事みたいに。

 

分かる(共感するみたいなニュアンス)。

 

最後まで多少の苛立ちを含みながら心地よく、面白い。

 

※会話はうろ覚えです